木工作家、吉川和人さんのものづくり
リネンとおいしい時間

木工作家、吉川和人さんのものづくり

October, 2016


LINEN & DECORのサロンでも活躍している、木工作家、吉川和人さんの木の器。あたたかみのある木という素材を用いながらシンプルで洗練されたフォルムのデザイン。使い続けていくうちに味わいが増していく奥深さはリネンと通じるところがあります。今回のコラムでは、素材選びからデザイン、制作まで、一貫してこだわったものづくりをされている吉川さんに、ご自身の作品について伺いました。
 

木工作家、吉川和人さんのものづくり

木工作家、吉川和人さんのものづくり拭き漆という最もシンプルな方法で仕上げたお椀。

―― 森で成長していた木の息吹を感じるものづくり

身近な自然素材として、人々の暮らしに寄り添う木。種類によって異なる木目の美しさや、香り、肌触りなど、私たちは古くから木のぬくもりを五感で楽しんできました。

「例えばこのお椀は北海道の楓を使っていますが、まだ湿った緑の苔が生えた生の丸太をチェーンソーで切るところから始めているもので、やはりほぼ生きていたような状態から関わって作ったものには、一つ一つ思い入れがあります。」
使う人はその作品を手に取ったとき、木が生きてきた時間と作家の思いを受け継ぐ事になります。
 

木工作家、吉川和人さんのものづくり スプーンはヤマナシという野生の梨の木から作られたもの。 緻密で粘りのある材で、仕上げるとツルッと滑らかな感触が特徴。もともと濃い赤い色の材は、オイルでのお手入れによりさらに深いボルドーに。滅多に出てこない希少な材で、そのしなやかさと深い色が好きだという吉川さん。
「スプーンの形も材の雰囲気から発想しました。自宅では生漆を塗って、より滑らかで丈夫にして実験的に使用中です。」


木工作家、吉川和人さんのものづくり 桜のバターナイフは動物の骨のような有機的な形をイメージしたデザイン。柄と刃のつなぎ目に稜線を作り、指の掛かりにしながら、全体の印象が柔らかくなりすぎないようにメリハリがつけられている。
 

―― 使い始めてからも育てられる木という素材

私たちの暮らしに彩りを与える木の器や道具たちは、長く愛用するうえで大切な「育てる」という楽しみも与えてくれます。

「少し欠けたとしてもヤスリや小刀でなんとなく整えることができます。湿度によって反ったりするのも生物資源ならではというか、そもそも、森で成長途中の生き物だったので、道具になった後もそれなりの主張や性格があっても仕方ないかもなぁというスタンスです。基本的には樹脂系の塗装はしないので、表面にムラができたり、色が褪せたりもしますが、時々、オイルを塗って手入れしてあげると徐々に表情が変わっていくのでそれも楽しんでやっています。」
 

木工作家、吉川和人さんのものづくり大切な小物をしまう収納自体にも愛着を持って欲しいという想いから、中でも特徴的な木目の材を使って作られた小物入れ。

木工作家、吉川和人さんのものづくり 17世紀の伝統的なウインザーチェアのリメイク。ディティール部分はパーツの太さやラインを変えることで軽さと優雅さを纏った吉川さんのオリジナルアレンジ。
 

 

木工作家、吉川和人さんのものづくり

木工作家、吉川和人さんのものづくり
    
       

―― 原点となったクルミの木の枝の杓子

吉川さんがものを作るおもしろさに初めて触れたのは、幼稚園に上がる前の事でした。

「近所の大工さんが端材を組み合わせた飛行機を作ってくれたことがありました。シンプルだけど形のポイントを押さえた丁寧な作りで、ところどころに飛行機っぽさを感じさせる細かい角度の断面があったり、手のひらにちょうどいいサイズ感とか、優しい木の雰囲気とか、色々なことが相まってとても感動した記憶があります。」

「育った環境が田舎だったのもあって、家族や友達とキャンプをしたり、木に登ったり、昔から自然が身近な存在でした。なのでものづくりにあたって、材に木を選んだのは僕にとってとても自然なことだったと思います。小さな森のすぐ近くに建つ実家には、2階の自分の部屋の窓際まで伸びるクルミの木があって、小学生の時にそのクルミの木の枝を使って母親に杓子のようなものを作ってあげたことがありました。なぜか未だに誰にも使われずに残っています。」

後にインテリア関係の会社に就職し、20世紀の巨匠達の家具に囲まれて働いていた吉川さん。やはり「材料を手で触るところからものづくりをやりたい」と思い直したのが、今の仕事を始めるきっかけの一つだったそうです。

木工作家、吉川和人さんのものづくり

木工作家、吉川和人さんのものづくり
 

―― 素材と誠実に向き合うことで生まれる、材料の個性に寄り添ったデザイン

過度な装飾をせず、シンプルでありながらどこか生命力を感じる吉川さんの作品は、そこにあるだけで凛とした存在感があります。その魅力は一体どこからくるのでしょうか。

「木は生きものの体の一部であったので、山での成長の過程がそのまま材に映し込まれます。色や模様をはじめ、それぞれの種類や部分で粗かったり密だったり、しなやかだったり脆かったりします。どこまで削っても均一な樹脂や金属と違って、材種や育った環境の違いで様々に異なる木は、物理的にどうしてもこちらから材料に寄り添っていかなければならない場面があります。それはデザインが制限されるということでもありますが、逆におもしろさを感じる時でもあります。」

「例えば、この節をどう入れたらカッティングボードの機能を果たしつつ美しく見えるか、お椀の漆のムラはどこに濃淡を持ってきたらより奥行きのある景色になるか、この上品な木の色にはどんなフォルムや重さが合うか、などなど、一つ一つの材料を考えながら制作しています。」

自分の理想の形だけを求めるのではなく、素材と誠実に向き合い、材料の個性に寄り添ったデザインは、大量生産ではつくりだせない唯一無二のものです。

「美しい節や歪み、偶然できた絵のような木目など、捉え方によっては既に完成されている、しかも一度きりしかない美しさでもあります。自分はその美しさに少し意図を添えて、もっときれいに現すというのが好きです。」

吉川さんの一貫した美へのこだわりが、自然の中で育った材料を独自の魅力に溢れた作品へと昇華させます。

木工作家、吉川和人さんのものづくり節や割れが入った材は偶然の産物。頭で必死に考えたものよりもはるかに美しく、作り込む部分と偶然の部分のバランスを意識した作品。
 

―― 世界とつながることや、そこから生まれる出会いも楽しみながら制作をしていきたい

前職で法人営業や企画を担当していた経験を生かし、個人向けのものの制作だけではなく、企業や公共物件など大きなプロジェクトにも関わっていきたいと、今後の意気込みを教えてくださいました。

「SNSが普及したおかげで、世界中のどこにいても、様々な感性を共有出来る人たちとつながる事ができるようになったので、世界とつながることや、そこから生まれる出会いも楽しみながら制作をしていきたいと思っています。ライフワークとしてのワークショップも引き続き行っていこうと思っています。」

 

何年もの時をかけてゆっくりと成長する木。そこには年輪に時間を閉じ込めた力強さと、人の手ではつくり出せない美の世界が広がります。そんな自然界の一部を切り取り、洗練されたデザインによって姿を変えた吉川さんの作品は、一つ一つに主張や性格があり、その個性はとても魅力的に映ります。毎日の暮らしの中で、大切にしているもののルーツを感じながら、テーブルや空間にストーリーが生まれる瞬間を楽しんでみてはいかがでしょうか。

Kazuto Yoshikawa    http://www.kazutoyoshikawa.com
「吉川和人木工展 木のある食卓」 2016年11月3日(木祝)から23日(水祝)
「一丁目ほりい事務所XCLASKA Gallery and Shop “Do” arbre + elephant, brun marron 小さいツリーとゾウと茶色」 (ツリーの共同制作) 2016年11月3日(木祝)から12月4日(日)


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